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本切羽
 かつて西洋文化が舶来したころ、英語やフランス語だった洋服の名称は巧みに日本語へ置き換えられた。不慣れなカタカナ言葉を使うより、和装や暮らしの中にあった単語のほうが、仕立て職人たちにとっては扱いやすかったのだろう。

 曰く「お台場」とは背広の内ポケットの仕立て方。「かぶら」とはパンツの裾の折り返し。「切羽」とは袖口のスリットを指していい、実際にボタン穴が開けられ、対になる袖ボタンを備えた仕様を「本切羽(ほんせっぱ)」と呼んでいる。

 ところで一年に数回、四季に応じた展示会が東京で開催される。おおよそ半年先に市場へ出る洋服を見定め、懇談や発注を行う催事であり、アパレルメイカーの一大イベントだ。全国の洋服屋のバイヤーが集い、まさしく喧々囂々を呈するのである。

 興味深いのはバイヤーやメイカーの、すなわちアパレル業界人が着用しているジャケットの袖。近年ではオーダーメイドのスーツが身近になった背景もあり、皆が申し合わせたように袖の端のボタンを一個だけ外している。さよう、本切羽仕様であることを誇示しているのだけれども、見回したところ全員が同じ格好になってしまうと、自慢効果は著しく減衰。むしろ滑稽に思えてしまうのだねえ。

 留めるべきボタンを外して着るのは本来、マナーに欠ける着こなしに違いない。来月の展示会では袖ボタンを留めて赴くとするか、うむ。
| 洋服屋の洒落日記 | 12:12 | comments(0) | trackbacks(0) |
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