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衣替え
 「こちらは合い物のスーツ生地です」と春先の店で話すことがある。「あいもの」とは春夏秋冬の四季に分けた夏や冬の前に着用する服地、という意味の常用語と認識していた。正確な定義を調べてみると、やんぬるかな大きな誤用。四半世紀も洋服屋をやっていながら身が縮む思いである。猛省。

 それは本来、魚河岸において塩干物と分類される、魚の加工品をさす呼び名。鮮魚と干魚の中間程度に乾燥させた、実に美味い魚の干物の事である。居酒屋で肴となるホッケなどが代表的な品物だ。文字もしかり。間物、また正しくは四十物と記す。

 言葉の位置づけは似通っているが、現代人が誤用に至るまでには一つのキーワードがあったのではないか。和装にある「袷(あわせ)」の着物。夏に着る「単衣(ひとえ)」や冬の「綿入れ」に対し「袷」は、四月と九月の初旬の短いあいだに使う着物として、武家社会で愛用されたという。いわゆる衣替えの習わしだねえ。

 西洋文化が海を渡ってもたらされたとき、かかる古来の慣習は巧みに融和した。魚と衣服の「あいもの」は、どちらも中間を示す言葉として、いつの間にか会話に用いられるようになったではないだろうか。

 宮中にて旧暦四月一日の行事として始まった衣替え。ちと気が早いが、そろそろ今年も春の箪笥を開けてみよう。
| 洋服屋の洒落日記 | 12:09 | comments(0) | trackbacks(0) |
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