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二十一年めのセーター
 さきごろ一通のメールが入った。ある東北の地方で当惑されている様子が文面から読み取れる。曰く、二十一年に当地で購入したセーターの糸が綻びた。買った店へ持ち込んだが「そんな古い商品は諦められよ」と断られた。ワラをつかむ思いでインターネットを検索し、小店ほホームページを見つけたという。そして補修の可否や、品物の取り扱いについて質問が続けられていた。そのセーターとはアランニットだ。

 たしかに二十数年前、この手でアイルランドから輸入し、全国十数店のメンズショップ仲間で販売した。収納に使っていただく木製の箱をこしらえ、手製の木綿袋を添えた。袋に「ゴルヴェイ社」のロゴマークを印刷したのも当時の洋服屋、すなわち私である。

 とおくの昔に取引業務を終えた店をとやかくいう筋合いはない。そんな事よりも、パソコン一台で辿り着かれた先様の要望が大きな問題なのである。もしも叶わなかったら、その落胆は想像の彼方ではないか。

 輸入を始めた当時「三十年も着られる本物」と謳った。言葉を裏切らぬために、輸出規制がしかれていた原毛を特別に輸入し、ずっと保管していたのである。この際利益は不問。なんとかしたい一心で事の次第を返信し、首尾良く綻びは完治。するとお客様は、ありがたくも新たな同品を購入されたのだった。またぞろ二十年、原毛は納めておこうかねえ。阿々、商人よ正直なれ。
| 洋服屋の洒落日記 | 12:02 | comments(0) | trackbacks(0) |
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