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フィシャーマンセーター
 寒い季節になると、編み物の本やファッション雑誌に約束のごとく特集ページが見られる、オフホワイトの縄編みのセーターがある。その昔、漁師が好んで着ていたとされるフィシャーマンセーターだ。

 伝統的な編み模様は家紋のように代々伝承されていて、漁に出た夫が、もしも海難事故に遭った万が一の際にも、着ているセーターの柄を見れば身元が判るようになっていたという。切なくもの悲しい誕生秘話は日本人の心を打つものだねえ。

 そのルーツを確かめるべく、アイルランドの西にあるアラン諸島へ渡ったことがある。痩せた大地と嵐ばかりの海、日差しはいつも乏しく、目にした光景は壮絶な険しさに支配されていた。しかし岩だらけの小さな島で、それは確かに継承されていたのだった。

 現地では「アランニット」というセーターの模様は、実のところ家紋ではなく、ケルト民族が太古の時代から培ってきたクラシカルな文様で、それは暮らしの中にある身近な物をモチーフにしたものだった。石積みの壁、漁に用いる網やロープがそれであり、妻は夫の体に合わせたセーターを手編みして営む。すると目数は必然的に一定の柄を生み、結果として家ごとの模様が決まったという。

 岩国は今朝も冷え込みが厳しい。街でお洒落な白いセーターを見かけると、貧しい毛布に震えながら夜を明かした、あの島の宿が思い出される。
| 洋服屋の洒落日記 | 11:51 | comments(0) | trackbacks(0) |
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