この匂い、重さ、そして派手な色合い。「スタジャン」と呼ぶそれは、フットボールクラブ毎に揃えて着用するユニフォームのようなものだ。東部アメリカのエリート大学生たちが愛用し、60年代に一世を風靡した。
身頃はメルトンと呼ぶ毛布のような厚いウールで、色を違えた革の袖を備え、さらに胸にははチームを表すレター・ワッペンが誇らしく飾られる。ほかにも大袈裟なししゅうや、対抗戦に勝利したときの記念が衣服の所狭しと描かれ、長いクラブ生活の栄光を刻むジャンパーとなる。スタジャンとは、そんなスタジアムで使うジャンパーをして生まれた和製英語である。
雨や風にさらされるスタジャンは年季が入る。ピカピカの真新しいジャンパーを着る新米は、先輩たちの姿を見て憑依を思い憧れて、いつかは立派な選手になろうと心に誓うのだった。
昨今では科学的な研究を尽くした繊維が開発され、多くは歴史を感じさせる風合いとなる前に、さっさと新しいモノへ取り替えられてしまう。機能性を一義にすればたいへんよろしい事にはちがいないのだけれども、どこか一抹の寂しさがぬぐえないのだねえ。
かかる蛮カラ精神を知る団塊世代が定年時代を迎えた。ふと日々の遊び着に目を向けたとき、彼らの目に留まったのは、かつて馳せた思いを彷彿させる匂いと重さだったのだろう。スタジャンを着たオジサマが街を闊歩している。