メンズUがある駅前商店街の一角は、その昔、角店の道路に面して流れる小さな川に囲まれていた。それはあまり美的な川ではなくて、まあ当時の下水道だった。店に入るには、ドブ川に渡したやはり小さな橋を使わねばならなかった。
いまから50数年前。メンズUは、メリヤス屋として肌着や靴下を売る店として、駅前に暖簾を出したのだった。
高度な経済成長の波に乗って、男の衣料はメンズファッションと名を替え、時代は空前のアイビーブームを迎える。メリヤス屋フジタは、先代のマスターの代となり、メンズショップに転身したのだった。
その頃には駅前の下水道も整備され、地下に埋設。商店街はアーケードを備え、華やかな時代が到来する。メンズUは店内を改装し、当時にしては瀟洒な佇まいを魅せ、順風満帆で前進するのだった。
VANヂャケットは次々と目新しいアメリカのファッションを持ち込む。足並みを揃えるメンズUでも店頭で、アマチュアによるフォークソング大会や、アメリカンフットボールチームを創り、それは賑やかな時代を過ごしたのだった。
雑誌メンズクラブ(婦人画報社刊)では、「街のアイビーリーガース」と云って地方都市の有名なメンズショップを周り、街ゆく人々の写真を雑誌に掲載していて、メンズUにも幾度となく来訪されたのである。まったく華やかな時代だった。
時は過ぎ、バブル景気の絶頂から一気に転落した経済の中で、日本は前代未聞の不景気にあえぐ。メンズファッション業界も例外ではなく、同業の仲間や取引先も姿を消し、一抹の寂しさを覚えつつ、それでも古くからのご贔屓さん方々に支えられ、メンズUは時代を過ごしたのだった。
そうして迎えた昨日。メンズUの改装が完成した。
思い返せば、おおよそ40年ぶりとなる。ドアの形や壁の色など、少しずつ手を加えてきた店内外だったけれども、床、壁、天井を一新したのは、もう半世紀も前の事──VANショップとして営んでいた時代の事である。
これから、また半世紀。今日がその最初の日。
ああ、なんて嬉しい!