石津氏が亡くなられた数日後、東京へ行く機会があった。メンズアパレルが開催する秋冬展示会で、まさに氏が多大な影響を与えて過ごされた業界である。その反響はいかばかりかと思いながら、早朝の新幹線に乗り込んだ。
来訪の挨拶を告げると、やはり予想通り、みまかられた氏の話題に移る。メンズファッション界のみならず、自身の青春時代に歴史を重ねあわせて、業界全体の行く末を案じつつ、一方で大きな時代の転換期を迎えた事を認識しあうのだ。
話しをする多くの人は、おおよそ40歳前後。もしくは少し上の方々。その上の世代は、とりもなおさず氏と共に、この業界を創ってこられた諸兄である。様々な流行を生み出し、色褪せ、また新しいネタを発信してきた人たち。
そうして見回してみると、20代の若者が極めて少ない。
なるほど。思えばアイビーブームに沸いた最後の世代は、いまおおよそ40代になっていて、当世代を直接の先輩として接してきた30代の人たちには氏の面影が記憶の中に残るが、その下の世代には伝説的に語り継がれてきただけだった。
すなわち、VANヂャケットの時代になされた偉業。ボートハウスの下山氏らが築きあげた次の時代。石津事務所を中心にカリスマ的な存在となった第三世代。これを最後に氏は直接的に街──メディアへ接する事が少なくなった。
青山の街を自転車に乗って愉しまれる氏が見えなくなったのは、ちょうどそのころだったかも知れない。
亡き父、雄之助と石津謙介氏。この世を去って、いよいよ本当の伝説となった両人と、それを語り継ぐ若者の姿を目の当たりにし、確実に時代が動いた事を改めて思い知るのである。
昔はこうだったとか云うもよし。だが未来をどうして行くかを、これからは自分自身の意志で決めていかねばならない。年を取るというのは、すなわちこういう事なんだな。
三度、ご冥福を祈ります。